東京高等裁判所 昭和40年(ツ)22号 判決
所論は、民法第五百四十一条によれば契約当事者の一方が相手方の債務不履行によつて契約を解除するには予め相当の期間を定めて履行を催告することを絶対的な要件とするのであるから、催告が実効をあげる見込が殆んどないような事情のもとにおいては賃貸人は賃借人に対しなんら原状回復の催告をなすことなく直ちに当該賃貸借の解除をなすことができるとした原判決は、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があると主張する。しかし、たとえ催告をしたとしても相手方が催告に応ずる意思のないことが明らかな場合には、催告をしないで直ちに契約を解除することができるものと解するのが相当であり、しかも、原判決の確定した事実によれば、被上告人は上告人浜名房治に対し「表の三畳だけ改造するという話だつたのに、全部改造して車庫にすることは困る。」と告げたところ、同上告人は「人が入ろうが、車が入ろうが家賃さえ入れば文句ないではないか。」と返事したというのであるから、原審が、被上告人が上告人らに対して原状回復の履行を催告しても、上告人らがこれに応じることは到底考えられないような事情にあつたとの認定の下に、被上告人が原状回復の履行を催告しないでなした本件賃貸借契約解除の意思表示を有効と認めたのはまことに相当であつて、所論は到底採用できない。
(牛山 武藤 今村)